消費電力はそれ相応に高い 簡易液冷ユニットの冷却性能は優秀

公称典型消費電力が275Wながら,電力供給自体は375Wまで可能で,200mm未満という長さの割には“凶悪”な8ピン×2の補助電源コネクタを持つR9 Fury Xだが,実際の消費電力はどの程度だろうか。今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみよう。
 テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。

 その結果がグラフ14だ。
 アイドル時の消費電力がR9 290XやGTX 980 Tiより10W高いのが気になる人もいるだろうが,おそらくこれは,簡易液冷ユニットに搭載されるポンプの消費電力だと思われ,アイドル時におけるR9 Fury Xの消費電力が無駄に高いということにはならないだろう。
 ちなみに,アイドル状態が続いたとき,ディスプレイ出力が無効化されるよう設定したところ,R9 290X搭載システムの消費電力は75Wまで下がったのに対し,R9 Fury Xは87Wに留まった。前述のとおり,ZeroCoreが有効になったことを示す緑色LEDが点灯しなかったので,今回のテスト環境では,ZeroCoreが十全には機能していない可能性がありそうだ。

 続いてアプリケーション実行時だが,R9 Fury Xの消費電力は,R9 290X比で27~60W,GTX 980 Ti比で45~73W高い,という結果になった。このスコアをどう評価するかは難しいところだが,ネガティブに表現するなら,「HBMの採用にによる電力効率の引き上げをもってしても,TongaコアのCompute Unit増強版であるFijiコアの省電力はいかんともしがたく,第2世代MaxwellアーキテクチャベースのGPUにはまったく歯が立たない」ということになるだろう。一方,ポジティブにいくのであれば,「R9 290X比の消費電力増大率は最大でも約15%に留まっており,ゲームベンチマークにおける性能向上率と照らし合わせれば,HBMの効果は明らか」といったところになる。

 

R9 Fury Xで採用されるクーラーの概要。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)500Wクラスに対応でき,動作音32dBA未満で,GPU温度を50℃未満に保てるとされる
Radeon R9 Fury
Radeon R9 Fury  3DMarkの30分間連続実行時を「3DMark時」として,アイドル時ともども,「GPU-Z」(Version 0.8.4)からGPU温度を追った結果がグラフ15となる。テスト時,システムはPCケースに入れることなく,いわゆるバラックの状態で室温24℃の環境に置いている。

 今回用意した4枚のグラフィックスカードは,言うまでもなくクーラーがすべて異なり,また,温度センサーの位置も異なるため,横並び比較には向かない。その点は注意してほしいが,簡易液冷クーラーを搭載するR9 Fury XのGPU温度はアイドル時,3DMark時ともに低く,とくに3DMark時のスコアは,AMDの言い分よりは高めながら,十分に魅力的な値だ。
 ただ,ここで誤解しないでほしいのは,R9 Fury XのFijiコア自体が低発熱というわけではないことである。少なくとも,ラジエータユニットから排出されるエアーはかなり温かく,AMDがR9 Fury Xで簡易液冷ユニットを標準搭載した事情はよく分かる。R9 Fury Xでは相応の熱が発生しており,それを優秀な簡易液冷ユニットが何とかしている,という理解をすべきだろう。

 

 ちなみに気になる簡易液冷クーラーの動作音だが,フルロード中でもハイエンドグラフィックスカードの冷却機構としては十分に静かといえる。比較対象となるカードだと,限られた空間で口径の小さいファンを搭載するしかないのに対し,R9 Fury Xではラジエータユニット側で口径の大きなファンを搭載できるのは,大きなアドバンテージになっている印象だ。
 少なくとも,R9 290Xのリファレンスクーラーよりは圧倒的に静かだった。

FF11 RMT